中学数学の正の数・負の数の単元が終了した次に学ぶのは、「文字式」についてです。
算数から数学へと学習が移行すると、この文字式でつまずいてしまう人が多くいます。
その理由は、文字が何を示しているのかが分からないから、ということです。
確かに、いきなり「この$x$はある任意の数です。」なんて唐突に言われても受け入れるほうが難しいですね。
このように文字式の学習では、数学なのに数が出てこなかったり、何を示しているのか分からない文字を使った計算が行われていくので、不安も感じることもあると思います。
ですが、あまり心配しないで大丈夫です。
文字式とは何か?を理解さえしてしまえれば、文字で計算することがいかに便利で都合よく計算することができるのかということが分かると思います。
少しずつ、理解できる部分からで問題ないので、このページで学習する文字式の知識を確実に自分のものにしていきましょう。
文字式とは?
早速ですが、文字式とは何か?という根本的な部分から説明していきます。
改めてにはなりますが、数学では「文字式」という考え方を今後は多用していきます。
これから学んでいくと感じることだと思うので、先にお伝えしておくと、具体的な数で計算することのほうが特殊なケースなのです。
前提について述べたところで、文字式についてみていきます。
文字式とは、数の代わりに文字を使って、計算や関係を表す式のことです。
たとえば、以下のような式を考えてみましょう。
- 商品の値段が300円で、$x$個買った場合 → 「$300x$」
- 速さが$v$、時間が$t$ のとき、移動した距離 → 「$vt$」
このように、文字を使うことで「どんな値にも当てはまる一般的な関係」を表すことができるのが、文字式の最大の特徴です。
中1数学の早い段階でこの単元を学ぶことには、次のような意味があります。
- 「どんな場面でも使える」汎用的な表現力が身につく
- 文章だけでは難しかった関係を簡潔に表現できる
- 文字式を使って法則やルールを発見しやすくなる
中学数学においては、今後の計算・方程式・関数などすべての基礎となる単元です。
文字式をしっかり理解することで、これからの学習をスムーズに進めていくことができるようになります。
文字の使い方にはルールがある!〜中1数学で知っておくべき基本〜
文字式の意味や文字式を学習する意味についてお話したところで、文字式を使ったルールについて説明していきます。
文字式を使うときには、ただ文字を書くだけでなく、正しい書き方やルールを守ることが大切です。
以下に、中学1年で学ぶ主なルールを整理して紹介します。
①かけ算の省略表現
文字式ではかけ算表現を省略します。
具体的には、かけ算の記号「×」を書かないで表現するということです。
下記で具体例を見ていきましょう。
- 数字と文字のかけ算 →「$2×x$」は「$2x$」と書く
- 文字同士のかけ算 →「$a×b$」は「$ab$」
- 文字が同じとき →「$x×x×x$」は「$x^3$」
特に3つ目のルールは、「累乗」と呼ばれる表現です。
累乗は数学の学習の中でも、また別に重要なものなので、別のページで解説していきます。
このように、「×」の記号は省略するのが基本です。
これは、文字式をシンプルに表すための習慣です。
②文字と数の順番
2つ目のルールは、文字と数字の表記の順番についてです。
表記の順番について、下記のルールがあります。
- 数字が前、文字が後 →「$x3$」ではなく「$3x$」
- $a×2$ →「$2a$」が正しい
このルールも「見やすく、誤解が起こりにくい」ために決められています。
③括弧の使い方
3つ目のルールは括弧を使うときの表現についてです。
- 式をまとめて扱いたいとき →「$2(x+3)$」
- 複数の項があるときは必ず括弧を使う
括弧があることで、計算の順序や意味をはっきりと示すことができます。
④分数の表し方
4つ目は割り算を分数で表現するというものです。
文字式の除法の解説でもお話しましたが、これからは割り算は分数での表現が基本になっていきます。
- 割り算を分数で書く →「$a÷b$」は「$\frac{a}{b}$」
- たとえば「1÷2」は「$\frac{1}{2}$」
分数は見た目の整理にも役立つ表現です。
⑤累乗の記号
①のルールでも登場してきましたが、同じ文字があるときは、累乗を使って表現します。
- 同じ文字を何回もかけるとき →「$x×x$」は「$x^2$」、「$x×x×x$」は「$x^3$」
このような「累乗」の書き方も、文字式の特徴の1つです。
指数(上につける数字)を使うことで、計算の構造がはっきりわかるようになります。
数学で使われる文字:アルファベットとギリシャ文字
文字式の基本的なルールについても解説したところで、数学で使われる文字を簡単に触れておきたいと思います。
数学では、様々な文字が使われますが、主にアルファベットとギリシャ文字が用いられます。
これらの文字は、数量や関係性を表すために使用されます。
アルファベット
数学で使用される代表的なアルファベットは以下の通りです。
$a, b, c$ | 一般的な定数や係数を表すのによく使われます。 |
$x, y, z$ | 未知数や変数を表すのによく使われます。 |
$n, m$ | 整数や要素の数を表すのによく使われます。 |
$f, g, h$ | 関数を表すのによく使われます。 |
$i, j, k$ | 添え字や整数を表すのによく使われます。 |
$l$ | 長さを表すのによく使われます。 |
$p, q$ | 確率や比率を表すのによく使われます。 |
$r$ | 半径を表すのによく使われます。 |
$s$ | 弧の長さや表面積を表すのによく使われます。 |
$t$ | 時間を表すのによく使われます。 |
$u, v, w$ | ベクトルや速度を表すのによく使われます。 |
上記の表の中には、よく分からない言葉もあるかもしれません。
ですが、この段階で分からないからと調べる必要は特にありません。
学年が上がったり、高校生になったら学習するものなので、今はこういうものに使われるのかぁぐらいの認識で全く問題ありません。
ギリシャ文字
ギリシャ文字は全て覚える必要はありませんが、数学で使用される機会も多いので、一覧にして紹介します。
$α$ (アルファ) |
$β$ (ベータ) |
$γ$ (ガンマ) |
$δ$ (デルタ) |
$ε$ (イプシロン) |
$ζ$ (ゼータ) |
$η$ (イータ) |
$θ$ (シータ) |
$ι$ (イオタ) |
$κ$ (カッパ) |
$λ$ (ラムダ) |
$μ$ (ミュー) |
$ν$ (ニュー) |
$ξ$ (クサイ) |
$ο$ (オミクロン) |
$π$ (パイ) |
$ρ$ (ロー) |
$σ$ (シグマ) |
$τ$ (タウ) |
$υ$ (ウプシロン) |
$φ$ (ファイ) |
$χ$ (カイ) |
$ψ$ (プサイ) |
$ω$ (オメガ) |
これらの文字は、数学の様々な分野で使用されますが、中学1年生の段階では、主にアルファベットの小文字を使用することが多いです。特に、$x, y, z$などの文字が未知数や変数として頻繁に登場します。
なぜ文字式を使うの?その本当の理由
ここまで文字式について解説していきましたが、なぜ数学で文字を使った表現をするのでしょうか?
実際に「なんで、わざわざ文字なんて使うの?」と疑問に思った人もいるかもしれません。
しかし、文字式を使うことには大きな理由があります。
以下に、代表的な目的を紹介します。
汎用性(どんな値にも当てはまる)
文字を使った表現の最大のメリットは、汎用性が高くなることです。
たとえば、「1個300円のリンゴを$x$個買ったときの代金」は「$300x$」で表せます。
この式なら、$x$=1でも2でも5でも、どんな個数にも対応できるのです。
複雑な関係を簡単に
2つ目の理由は、シンプルに式を表現できるようになるということです。
- 「父の年齢は子どもの年齢の3倍」は、「子どもを$x$歳とすれば、父は$3x$歳」
- 「速さ$v$で$t$時間進むと、距離は$vt$」
このように、言葉で表すと長くなる内容も、文字式なら一目で伝わるのが魅力です。
法則やパターンを見つけやすくなる
3つ目の理由は、数式にある法則やパターンを見つけやすくなるというメリットがある点です。
たとえば、連続する2つの奇数を$a$とすると、次の奇数は「$a+2$」となります。
そこから「2つの奇数の和は常に偶数になる」など、法則的な気づきが得られることもあります。
文字式はどこで役に立つ?身の回りの例
ここまで文字式の考え方や意味について見てきましたが、この知識は日常生活においてどのように活かされているのでしょうか?
いまいちピンと来ない学生さんもいるとは思いますが、中学数学で学ぶ「文字式」は、実は日常生活や将来の仕事でも活用されています。
ここでは、中学1年生でもイメージしやすい例をいくつか紹介します。
(1)買い物やお小遣いの管理
まず1つ目の例は、買い物やお小遣いなどのお金に関する例です。
- 商品が1つ$a$円で、$x$個買う →「$ax$円」
- お小遣いが月に$m$円、年では? →「$12m$円」
このように、文字式を使えば、状況に応じて計算できる便利な「式」が作れます。
(2)速さ・時間・距離の関係
2つ目の例は、よく例として挙げられる距離と時間、速さの関係についてです。
- 距離 = 速さ×時間 →「$d=vt$」
- 通学距離が4km、時速2kmなら? →「$t=\frac{d}{v}=\frac{4}{2}=2$時間」
理科や社会でも出てくる「速さ・時間・距離」の関係は、文字式の代表的な活用場面です。
(3)部活動や趣味の計画にも
3つ目が最も中学生にとっては身近かもしれませんが、部活や趣味における例です。
- 練習メニューが1セット15分で、$x$セットやる →「$15x$分」
- 自分の読書量:1日$y$ページ、1か月で? →「$30y$ページ」
こうした場面でも、「文字を使って式を立てる」ことが役立ちます。
文字式の落とし穴!つまずきやすいポイントとその対策
ここまで見てきたように、文字式は様々な状況でも一般化した式で表現できる便利な数式だということはわかっていただけたと思います。
ですが、文字式は便利な反面、間違えやすいポイントがいくつかあります。
中学1年生のうちに正しい考え方を身につけておくことが重要です。
間違えやすいポイントをそれぞれ見ていきましょう。
①「文字×文字」の順番に注意!
1つ目は、文字の表記の順番についてです。
たとえば、「$x×2$」を「$x2$」と書くのは間違いです。
正しくは「$2x$」と、数を先に書くのがルールです。
また、「$x×y×3$」は「$3xy$」と書くのが自然です。
文字と数字の順番を逆にすると、読み間違いや計算ミスの原因になります。
② 足し算と引き算は「項」を意識する
2つ目からは、文字式の計算の中で起こるミスです。
たとえば、
「$3x+2x$」は →「$5x$」
でも「$3x+2y$」は → そのまま(項が異なるため)
文字が同じときだけ、係数をまとめることができます。
つまり、同類項でなければまとめられません。
③括弧の外し方・分配法則に注意!
中学で学ぶ計算の法則の1つの分配法則を行うときもミスには注意です。
式「$2(x+3)$」を展開するには、分配法則を使って「$2x+6$」とします。
括弧をつけたまま計算しようとすると順序を間違えることがあります。
分配法則は中1文字式の大きな山場なので、繰り返し練習が必要です。
④マイナスの符号に注意!
また、負の数や引き算が絡むと、符号ミスが多くなります。
「$−2(x−3)$」→「$−2x+6$」
括弧の中に「−」があるときは、符号の変化に特に注意しましょう。
ミスを防ぐには、1行ずつ丁寧に書き、途中式を省略しないことが大切です。
文字式の計算ルールを使いこなそう
上記では、文字式における注意点を説明してきました。
この注意点をしっかりと押さえたうえで、実際に計算を行っていくようにします。
実際に計算を行っていく前に、文字式の計算にはいくつかの「公式」や「ルール」があります。
まずは、それぞれの意味をしっかり理解し、使いこなせるようになりましょう。
【基本ルール1】同類項をまとめる
1つ目のルールは同じ文字の項(同類項)はまとめましょう。
「$3x+5x−2x$」→「$6x$」
「$4a−2a+a$」→「$3a$」
「文字が違う」「文字の数が違う」場合はまとめられません。
【基本ルール2】分配法則
2つ目のルールは計算式を整理するための、分配法則はしっかりと使いこなすようにしましょう。
あらためて確認すると、$a(b+c)=ab+ac$という形のルールです。
「$2(x+3)$」→「$2x+6$」
「$−3(x−4)$」→「$−3x+12$」
この考え方は、これから勉強していく方程式の解法でも非常に重要です。
【基本ルール3】係数を意識した掛け算・割り算
3つ目は、係数を意識して式を整理していくということです。
文字と数を掛けたり割ったりする場合も、係数をしっかりと意識して計算するために、係数を分けて考えるとわかりやすくなります。
「$2a×3b$」→「$6ab$」
「$6x÷3$」→「$2x$」
「$4a÷2a$」→「2」 ※$a≠0$のとき
分数を使った表現にも注意しておきましょう。
文字式を使った文章題の考え方
文字式のポイントを押さえたうえ、実際の問題についても少し見ていきます。
文字式の分野では、特に文章題を文字式にする力がとても大切です。
「言葉の情報を、数学の言語である文字式に変換する」ことが、計算力だけでなく論理的思考力の土台にもなります。
いくつかの例をもとに、一緒に考えていきましょう。
例1:買い物の文章題
1個200円のノートを$x$冊買ったとき、合計金額はいくらですか?
「$200x$(円)」と文字式で表現できる。
さらに、
消費税10%を加えた金額は?
「$200x×1.1$」=「$220x$(円)」
このように、買い物や生活に関する文章を式に変えることで、複雑な内容もシンプルに計算できるようになります。
例2:速さ・時間・距離の文章題
速さが$v$km/h、時間が$t$時間のときの移動距離は?
「$vt$(km)」と表現できる。
このような「文字で式を立てる力」は、理科や地理など他教科でも応用可能です。
身の回りで活かされる文字式の世界
ここまでは、勉強においての文字式について見てきました。
ここまでの内容を振り返ると、文字式は数学だけの中で完結していて、日常生活ではあまり役に立たないかもしれないと感じている人もいるかと思います。
でも実は、文字式は日常生活のあらゆる場面で使われています。
そのことを知ると、学ぶ意欲も自然と高まるはずです。
実際に文字式が使われている例を見ていきましょう。
(1)プログラミングの世界
まず代表的な例は、プログラミングにおいて使われている例です。
プログラムでは、変数(文字)を使って処理を行います。
たとえば、
price = 300
amount = x
total = price * amount
というコードは、まさに「$300x$」と同じことをやっているのです。
(2)エクセルや家計簿の計算式
もう少し身近なものを挙げると、中学生もエクセルは使ったことがあると思います。
エクセルの計算についても、文字式が使われている代表例です。
エクセルなどの表計算ソフトでは、文字式のような計算式が使われます。
「=A1\*B1」→ A1の値×B1の値
「=(収入−支出)」→ 貯金額
計算の自動化や家計管理にも文字式の考え方が必要です。
(3)将来の仕事や研究でも
最後の例は、実際の職業で使われているものを紹介します。
- 建築士:柱の長さや重さのバランス計算
- 看護師:体重×薬の量など
- 研究職:物理法則、統計式
- マーケティング:売上 = 単価×販売数
ほんの一例ですが、このようにさまざまな職業で文字式の考え方が土台になっています。
学習のまとめ
これまで解説してきたように、「文字式は数学の言語」ともいえる大切な考え方です。
ではあらためて、文字式を学ぶ目的と、その効果をまとめてみましょう。
【目的1】数や関係を「一般化」するため
数字だけの式では「1つの具体的な場合」しか表せませんが、文字を使えば「どんな数でも通用するルール」が書けるようになります。
【目的2】数と数の関係を「簡潔に表現」するため
言葉で表すと複雑な内容も、式にすれば一目瞭然です。
【目的3】文章や現実の問題を「数学で解く」力を育てる
中1の段階で、文字式を使って文章を式に変える力を身につけると、方程式・関数・グラフなど、今後の学習につながる考え方が自然と身につきます。
テストに出やすい!文字式の重要ポイントまとめ
文字式は中学数学の大きな土台になる単元です。
なので、しっかりとテストや試験で点数をとるようにしてもらいたいので、文字式の重要なポイントを簡単にまとめておきます。
①同類項の計算
「$3x+2x−x$」 → $4x$
「$5a−3a+a$」 → $3a$
「同じ文字・形の項」をしっかり見極めてまとめる練習をしましょう。
②分配法則の利用
「$2(x+4)$」 → 「$2x+8$」
「$−3(x−2)$」 → 「$−3x+6$」
この形は、テストの頻出パターンです。
計算手順を確実にマスターしておくことが重要です。
③文章題からの式の作成
「1個120円のペンを$x$本買ったときの合計金額」
「$120x$」
「兄の年齢は弟の年齢の2倍。弟を$x$歳とすると兄は?」
「$2x$」
文章の意味を読み取り、式に置きかえる練習は、テストにも実生活にも役立ちます。
家庭学習で取り組むべき勉強法
ここまで文字式について解説してきましたが、文字式の学習内容はこのページで解説している以外にももっとたくさんあります。
なので、基本的なことからしっかりと知識をしっかりとつけていく必要があります。
そこで、ここでは家庭学習で取り組むべき勉強方法を紹介しておきます。
【勉強方法1】自作の文章題を作る
まずは自分で文字式の文章問題を作成してみるというものです。
例えば、下記のような簡単なテーマで作ることをおすすめします。
- 買い物や通学など、自分の身の回りのことを使って式を立ててみる。
- 「家から学校までy km、毎日往復してる。1週間で何km?」
自分で問題を作ることで、文字式の「考え方の使いどころ」が見えるようになり、応用力が伸びます。
【勉強方法2】同じ計算を複数の方法で解いてみる
また文字式は複数の解法がある場合があります。
そのような問題は、どんな解法でもしっかりと答えまでたどり着けるか試してみることをおすすめします。
「$2(x+3)$」を、
- 分配法則で解く →「2x + 6」
- x=1, 2, 3を代入して式の変化を見る
このようにすることで、式のしくみやパターンに慣れることができます。
まとめ
このページでは、文字式の基本的なルールから文字式を扱う意味、実際の生活における例、文字式の注意点や学習方法を説明してきました。
改めてまとめると、文字式には以下のような意味があります。
- 中学数学の土台となる知識
- 数や関係をわかりやすく整理する言語
- 実生活や将来の職業でも活かされる力
最初は難しく感じても、ルールと意味を理解すれば「考え方を整理する解き方」が身についていきます。
冒頭でも述べましたが、文字式は始めのうちはイメージしにくい「よくわからないもの」です。
ですが、少しずつ文字式に対する理解を深めていき、「便利で使い勝手のいい言語」としてこれからの数学の学習に活かしてもらいたいと思います。
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