絶対値は、数直線上の原点(0)からの距離を表す概念です。日常生活でも、温度差や誤差など、様々な場面で活用される重要な数学的概念です。このコラムでは、絶対値の基本的な考え方や性質、そして私たちの身近にある具体例について解説します。
絶対値とは何か
絶対値とは、ある数がゼロから離れている距離を表す概念です。数学では、絶対値を表すために「| |」という記号を使います。例えば、「|5|」は5の絶対値を表し、その値は5になります。同様に「|-5|」も5になります。つまり、正の数も負の数も、絶対値では同じ大きさとして扱われます。
絶対値の考え方は、数直線上で理解するとわかりやすくなります。数直線上で、ゼロ(原点)から右に5進んだ位置と、左に5進んだ位置は、ゼロからの距離が同じです。この「ゼロからの距離」が絶対値のイメージです。
絶対値の性質
絶対値には、いくつかの重要な性質があります。これらの性質を理解することで、絶対値の概念をより深く把握することができます。
1. 非負性(負にならない性質)
絶対値は常に0以上の値になります。つまり、どんな数の絶対値も、負の数にはなりません。これは、距離が負の値になることはないという直感的なイメージと結びつけて考えると理解が早いと思います。
2. 対称性
ある数とその数の符号を反転させた数(正負を逆にした数)の絶対値は等しくなります。例えば、「|3| = |-3| = 3」となります。
3. 三角不等式
2つの数の和の絶対値は、それぞれの絶対値の和以下になります。つまり、$|a + b| ≤ |a| + |b|$が成り立ちます。この性質は、図形的な意味を持っており、三角形の辺の長さの関係にも通じています。絶対値を学習し始める中学生1年生の段階では、この意味を完全に理解する必要はありませんが、絶対値には、こういった性質があるということは、頭の片隅に置いておいてもいいでしょう。

日常生活における絶対値
絶対値の概念は、私たちの日常生活の中でも様々な場面で活用されています。以下に、いくつかの具体例を挙げてみましょう。
1. 温度差の表現
気温の変化を表す際に、絶対値の考え方が使われます。例えば、「気温が5度下がった」という表現は、変化の大きさを絶対値で捉えています。朝の気温が15度で、夕方の気温が10度だった場合、温度差は|15 – 10| = 5度と表すことができます。
2. 誤差の計算
科学実験や工学的な測定では、理論値と実測値の差を誤差として扱います。この誤差の大きさを表す際に絶対値が使用されます。例えば、ある長さの理論値が100cmで、実際の測定値が98cmだった場合、誤差は|100 – 98| = 2cmとなります。
3. 金融取引での損益
株式投資やFX(外国為替取引)などの金融取引では、損益を絶対値で表現することがあります。例えば、「1,000円の利益」も「1,000円の損失」も、その変動の大きさとしては同じ|1,000|円と捉えることができます。
4. 地図上の距離
地図上の2点間の距離を考える際、緯度や経度の差の絶対値を用いることがあります。例えば、東経135度の地点と東経130度の地点の経度差は|135 – 130| = 5度となります。
これらの例からわかるように、絶対値の概念は単に数学の教科書や問題の中だけでなく、実際の生活の中でも広く応用されています。温度、距離、金額など、様々な量の「大きさ」や「差」を考える際に、絶対値の考え方が役に立ちます。
学習を始めた時は、なかなか絶対値の日常生活での利用をイメージするのは難しいですが、今後数学の学習を通して、絶対値を利用した考え方を理解して、実際に使えるように自然となっていくので、今の段階で全くイメージできなくても焦りや心配を抱かなくても問題ありません。
絶対値と数の大小関係
絶対値を理解する上で、数の大小関係との関係も重要です。絶対値は、数の「大きさ」を表すものですが、元の数の正負は考慮しません。このため、絶対値の大小関係と、元の数の大小関係が異なる場合があります。
例えば、-5と3を比較すると、-5 < 3 ですが、絶対値で比較すると |-5| > |3| となります。これは、-5の方が0から遠い位置にあるためです。
このような性質は、数直線上で考えるとより理解しやすくなります。数直線上で、原点(0)から等距離にある2つの点は、常に絶対値が等しくなります。例えば、-4と4は数直線上で0から等距離にあり、|-4| = |4| = 4 となります。
絶対値と大小関係の関係を理解することで、数の性質をより深く把握することができ、これから学習していく様々な数学の問題を解いていく際に、とても重要なイメージになっていきます。

絶対値の応用と発展的な考え方
ここまでで、絶対値の基本的な概念や考え方を説明してきましたが、絶対値の概念は、中学生の数学から、この先の数学や理科、高校の理科科目、大学や実際に将来に就く仕事の中でも重要な考え方になるものであります。ここでは、絶対値の応用と発展的な考え方について、中学生にも理解しやすい形で説明していきますが、絶対値の基本的な内容までの理解で十分という人はここから先は読み飛ばしても問題ありません。
ご自身のレベルに合わせて、読む内容を調整してください。
1. 関数のグラフと絶対値
絶対値を含む関数のグラフは、通常の関数とは異なる特徴的な形状を示します。例えば、$y=|x|$ というグラフは、原点を頂点とするV字型になります。これは、$x$が負の値のときにグラフが折り返されるためです。このような絶対値を含む関数のグラフを理解することで、より複雑な関数の振る舞いを視覚的に捉えることができるようになります。
2. 複素数と絶対値
高校数学以降で学ぶ複素数という分野においても、絶対値の概念が重要になります。複素数平面上での点の原点からの距離を表すのに絶対値が使われます。これは、複素数平面上での考え方やイメージは、2次元平面上での距離の概念を拡張したものと考えることができます。
3. 統計学における絶対値
データ分析や統計学の分野では、平均偏差(データの各値と平均値との差の絶対値の平均)という概念があります。これは、データのばらつきを測る指標の一つで、絶対値を用いることで、正負の偏差を同等に扱うことができます。
受験生には聞き馴染みのある「偏差値」という数値を求めるときに平均偏差という概念を使って求めることもします。
4. 物理学における絶対値
物理学では、ベクトル(方向を持つ量・高校生の数学で学習します。)の大きさを表すのに絶対値が使われます。例えば、速度ベクトルの絶対値は速さを表します。これにより、運動の向きに関係なく、その大きさだけを考えることができます。
この考え方は、高校で物理を選択すると学習する内容です。
なので、中学生の学習の中で、等速直線運動や電気などの学習が面白いと感じている人は、高校でぜひ物理を選択してみましょう。
絶対値を学ぶ意義
このコラムの最後になりますが、中学生の皆さんにとって、絶対値を学ぶ意義は何でしょうか。
もちろん受験に必要な知識というのは前提としてありますが、それとは別に以下に、いくつかの重要なポイントをまとめてみました。どうしても絶対値を何のために学習しているの理解ができないという人は、絶対値の学習を考える上で参考になると思うので、目を通してみてください。
1. 抽象的思考力の育成
絶対値の概念を理解することは、数の性質をより抽象的に捉える力を身につけていきます。これは、今後の数学学習において、とても大切な力であり、この力をしっかりと身につけると、難しい問題や複数の学習分野が混ざった応用問題でも対応できるようになっていきます。
2. 実生活との関連
先に述べたように、絶対値は日常生活の様々な場面で活用されています。この概念を理解することで、身の回りの現象をより数学的に捉えることができるようになります。
3. 問題解決能力の向上
絶対値を含む計算問題を解く過程で、論理的思考力や問題解決能力が身についていきます。これらのスキルや知識は、数学はもちろん、数学以外の分野でも役立ちます。
4. 高校数学への準備
絶対値の概念は、高校数学でより深く学習する関数や方程式の基礎となります。中学時代にしっかりと理解しておくことで、高校数学へのスムーズな移行が可能になります。
まとめ
絶対値は、中学数学の中で初めて出てくるイメージしにくい概念・考え方であります。絶対値は理解すると単純な概念に思えます。しかし、しっかりと理解して使いこなせるようになるまで、人によってどのくらいかかるかは変わってきます。これまでの算数や正負の数は、数を「量」として捉えていたものを、絶対値では「大きさ」として捉えて考えていかなければならないという、根本的な考え方の違いが難しさや理解の困難さを引き起こしている原因です。
中学生で初めて学習する人には、上記で述べた違いを認識できる人は少ないと思います。そのため絶対値を単なる計算の道具として考えてしまいがちになります。ですが、そういう人こそ、絶対値を数学の考え方を深く理解する重要な概念として捉えてもらいたいと思います。日常生活の中で絶対値の考え方を意識し、その応用を探ってみることで、少しずつですが絶対値の考え方や使い方をイメージできるようになってきます。
絶対値の学習を通じて、数学的な見方・考え方を身につけて、論理的思考力を磨いていくことは、数学の学習を始めたばかりの人たちの今後の学習にきっと役に立つ力になっていきます。この機会に、絶対値の理解と合わせて、中学生で新しく学ぶ数学の考え方や概念への理解の第一歩を踏み出してもらえたらと思います。

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